蛇 伝 説
 

白 蛇                 高杉イサエ氏より聞書 

高杉さんは、元屋島小学校の教師であったから、大橋前の民話・昔話については数多く知っているだろうと訪ねていった。
「私はよそから嫁にきたんで、あまり知りませんよ・・・。そういえば、うちの裏の庭の太い木にホコラがあって、白蛇がいたんです」

これは面白い取材ができると喜んで、
「先生、その白蛇は人間に化けるとか、悪戯をしたりするんですか」
「何いよんかいの、蛇が化けたりするもんな・・・」

鋭い面を一本くらった感じ、さすが元先生である。

 

三軒古浜の大蛇(1)          佐々木義治氏より聞書   

昔々と言う程遠くない大正の末期頃、八坂神社の御旅所の西にあった三軒の浜に大蛇がおった。

朝早く浜に行くと、浜の西の堤防から一尺位の幅でクネクネと浜の中を大蛇が通った跡があった。誰かがいたずらにアテコを引っ張ったのではと言う大人もいたが、朝早く友達と浜へ行ってみると、確かに大蛇が通ったような跡があった。

(註)浜・・・塩田    アテコ・・・小麦藁で作った三角形の製塩用具

 

ゴオラの大蛇              江浪雪雄氏より聞書 

昔、屋島の壇の浦のゴオラに大蛇がおった。

ある日、村人が子供の薬にするために、ゴオラへ薬草取りに行ったところ、四斗樽の太さもある大蛇が寝ていたので、腰を抜かさんばかりにびっくりして飛んで帰った。

しかし、この大蛇は人間に悪戯するでもなく、ただ毎日長々と寝そべって、日向ぼっこをしているだけで、夏の暑い日照りが続いた時にはゴオラに水が無くなるので、庵治まで水を飲みに行ったということで、このことは白波を蹴立てて庵治へ向かう大蛇を見たと言う人が何人もおるので、確かなことだそうな。

江浪氏は、これは祖母ヨシさんから聞いた話であると言いながら、自分が子供の時これを確かめるため、庵治の友達とゴオラへ行ったことがあるが、大蛇がいても不思議ではない所であったそうだ。

(註)ゴオラとは、山の崖縁の木の生えていない石ころだらけの場所。

 

地蔵寺の大蛇              鎌野松吉氏より聞書 
「屋島には大蛇が棲んどるけん、気つけよ・・・」と、子供の頃からよく親父に言われていた。

ある夏のこと、地蔵寺の裏で薪木を採ってショイコに縛りつけ、地蔵寺の入口付近まで帰ってきたところ、一升ビン位の太さがある長い蛇がクネクネと西の畑の方へはっていくのを見た。
「屋島は山が深いけん、親父が言うた通りの大きな蛇がおるもんじゃの」と、思いながら蛇が入っていった西側の畑に目をやると、一斗樽程の太さの蛇が畑の溝をはって行くのが見えた。

びっくりしたのなんの、腰が抜けてしまってショイコを投げ捨てて、這って家へ辿りついたことがある。

地蔵寺に大蛇が棲んでおると言うことは聞いたことがないので、これは山から下りてきたのであろう。
「天野さんも山へ行く時は、気つけまいよ」と警告を頂戴した。

 

三軒古浜の大蛇(2)          鎌野松吉氏より聞書 

浜北から帰る途中、八坂神社のお旅所の辺りへさしかかると、大谷川に架る五軒屋の石橋の上を大きな松の木が横たわっている。何でだろうと近寄って見ると、一斗樽程もある太い長い蛇が、三軒の浜へ向かって這い下りているところであった。

頭は浜に着いているのに、尻尾はまだ石橋のだいぶ東にある。

これが最近噂になっている、三軒の浜の大蛇かとおもった。
「鎌野さん、そんな太い蛇はおらんでしょうが」
「いや、俺がこの目で見たんじゃけん間違いない」

筆者はこの話を聞いた時本当だろうかと疑ったが、見た本人が言うのだから本当の話であろう。

大橋前地区の佐々木義治氏もこの噂は知っているという。

 

屋島登山道の大蛇            噂により聞書 

この話は私達一家が、昭和二十年七月四日の米軍による高松空襲のため罹災者となり、大橋前の三浦末吉さんのご好意により屋島へ引っ越しをしてきた頃であるから、昭和二十二、二十三年頃のことであったと思う。

ある農家の人が屋島山から雑木を切り出して、屋島小学校の上の柑橘園がとぎれた辺りにきた時、疲れたので一服しようと荷をおろして、松の木にもたれたところ、何とはなしにその松の木が動くような感じがした。何だろうとよく見ると、一升ビン位の太さの蛇が、松の木の枝からぶら下がっていたのにもたれていた。
「そうだ、ここには松の木が無かった筈だ」と思ったトタンに気絶してしまったと言う話。

その後、その農家の人がどうなったかは聞いていないが、屋島山は深いし谷もあるので、大蛇がいても不思議はないと、それからというものは、極度に蛇嫌いの私はこの辺りを歩くことを遠慮するようになった。

 

蛇 娘                 新田庄市氏より聞書 

長崎の鼻の洞窟は豊島石の採掘場であったが、昔はこの洞窟の奥に大蛇が棲んでいた。

ここの大蛇は人間を化すので、用事のある人は明るいうちにここを通らなければならなかった。

ある日、長崎の鼻に住んでいる松岡の善太郎さんが、早く用事を済ませようと、明るい時にここを通りかかると、美しい娘が現れた。この辺りのことは何でも知っている善太郎さんであるから、これは大蛇が出てきたなと近寄って、
「娘さん、あんたは上手く化けているつもりだろうが、着物の後から尻尾が見えとるぜ。どうせ化けるんなら、上手く化けないかんの・・・」
「ほんなら、今度通った時教えていた・・・」

暫くして、又、ここを通らなければならない用事ができたので、蛇娘がいるかと期待しながら通ると、果たして蛇娘が出てきた。
「おっさん、この前の約束じゃけん、化け方を教えていた・・・」 

善太郎さんは、このことを予期して、女物の派手な着物を持ってきていたので、
「お前、ちょっと向うむいとけ」と言って急いで女物の着物と着替えた。
「よっしゃ、見てみ」
「おっさんは、上手いの・・・」
「ところで、お前が一番好かんもんは何じゃ」
「うちは、煙草のヤニが一番好かんのじゃ」
「おっさんは、何が好かんのな」
「おらはの、金が好かんのじゃ」

こんなやりとりがあって浦生に入り、浦生の人達に頼んで浦生中の煙草のヤニを集めて持って帰り、大蛇が棲む洞窟の穴に一杯詰め込んだ。大蛇はこのために体中が腫れ上がり、寝付いてしまったが、暫くしてようやく少し良くなったので、沢山の金を持って善太郎さんの家へやってきて、
「好かん言うとった金を持ってきたぞ」と言いながら家の中へ金を投げ込んだ。善太郎さんは、
「もう、止めてくれ、金で重いけん、止めてくれ」と言いながら、ニコニコしながら金の山に埋もった。と言う。

この後善太郎さんは、金に困らなかったかどうかはわからないが、大蛇はもう出なくなったと言う。